FORGET ESSAYS叢書#01 編集後記
FORGET ESSAYS叢書の第一冊『今日ここにあって、明日消え去る:崇高の美学とタリア劇場』の巻末に収録した編集後記を公開します。
本書は、FORGET BOOKSの出版活動の出発点であり、「手紙としての本」というコンセプトのもとに設計された造本や流通のあり方そのものを模索した新たな試みでもあります。叢書の趣旨や背景について、まだご覧いただいていない方にも広く知っていただければと思い、編集後記をウェブ上で公開することにしました。 今後はエッセイにとどまらず、建築物にフォーカスした書籍の刊行も予定しています。試行錯誤しながら、毎日パンを焼いて売るように、持続可能でワークインプログレスな本づくりを目指していきます。今後ともよろしくお願いいたします。
本書は、出版レーベルFORGET BOOKSの最初の刊行物であり、FORGET ESSAYS叢書の第一冊目となるものです。本叢書は、見落とされがちだけれども繰り返し読む価値のあるテクストを、できるだけ気軽に建築家や研究者が紹介できる媒体を目指しています。 そして、親密性や触覚性、時間をかけてひとつのテクストを「読む」体験など、「手紙としての本」というコンセプトをもとに、企画編集から装幀、製本、流通に至るまで一貫した設計を心がけました。 そのような本叢書の構想にあたっては、平出隆氏の極小出版の試みから大きな示唆を得ました。というよりも、長年をかけて氏がたどり着いた、『精神の交通のあたらしい場所』(via wwalnuts、2011)を読んでいただければ、この小さな試みはそのひとつの変奏曲のようなものであることが理解いただけると思います。 造本については、デザイナーの倉品美沙さんと議論と改良を重ね、最終的な形に行き着きました。当初は封筒のような表紙と本文を一体化させた、より手紙の形式に近い造りで、手紙を開ける時のささやかな歓びと高揚感を特に大事にしていました。 その後、より幅広い読者に向けてできる限り廉価にお届けできること、そして気楽に持ち運びでき、思わず手にとって読みたくなるようなものを目指して幾度となく試行錯誤を重ねた結果、現在のようなシンプルな形に落ち着きました。揺れ動くわたしの意見に最後まで真摯に向き合ってくださった倉品美沙さんに、この場を借りて心より感謝申し上げます。
FORGET BOOKSの試みはまた、出版と流通を取り巻く現代的な状況に対する挑戦=抵抗でもあります。あえて紙の媒体で出版すること、旧来の郵便システムを利用すること、日本語で残していくこと、そして忘れ去られていくものたちに目を向けること。 一見このような試みは退行的で、ノスタルジックなものにうつるかもしれません。しかし忘れてはいけないのは、新たな技術や社会の革命によって消失に追いやられ、石棺化したものたちは、逆説的にその新しい技術によって支えられながら、再発見され、新たな価値をもってよみがえることがあるというものです。 本叢書が、ささやかながらもそうしたきっかけを生み出すことができるような試みのひとつになれば幸いです。
いつも目の前のことに気を取られ、大事なことを忘れがちな自分に対しての戒めとして。
2025年4月5日、つつじヶ丘にて
佐伯達也
今日ここにあって、明日消え去る─── 崇高の美学とタリア劇場
B6変形判 / 52頁
定価 800円+税
2025年4月15日 刊行